2011年1月6日木曜日

夜明けの珍ベーシスト、逝く。

私が唯一持っているベースギターは、フレットレスである。

彼が独学で習得した、と言われるミック・カーンの奏法は、
さすがに誰もまねのできないものであったのだろうか。
あるいはまねをしようと志す、その意の及ばぬほどの高みに、
彼の関わる音楽、楽曲すべてを含め、位置していたのだろうか。

ミックのベースありきのバンド、またアルバム、一つ一つの楽曲。
そこにあふれた異様かつ痛快なベースラインと、
ベースラインそのものに現れた奏者の全身を行き渡る恍惚が、
一つのジャンルをも構成できるほどの空気の塊を作り上げた。

一方で、誰でも良いのにたまたま知り合いのベーシストがミックだった、
というような、安易なバンド編成から生まれる楽曲からは、
彼の世界観を微塵も感じ取ることができず、落胆したものだ。

かの病が意外と身近な所にあることに、
この歳くらいになると気づくものだが、
得てして何の罪もなく、逆に孤高の存在であるような所にも、
同じようにそれは存在するものだと、何度も思う。

ただ、そうして消えて行く一つ一つの記憶それぞれに、
消え行くときにこそ差す、一筋の光明のようなものがある。

当たり前のようにそこにあるものは、
いつも同じ場所にいるのに誰の目にも見えない。
なくなって初めて、誰もがその存在の大きさに気付くものだ。